
伽哩
Pork or Chicken. That is the problem.
―――冷たい。
頬に当たる冷たい感触にメロは目を覚ました。
節々が痛い。
体が硬直しているようだ。なぜだろう。
夢の中で、Lに謝っていた気がする。
それにしても顔が冷たい…
冷たい?
突然意識がくっきりして、メロは起き上がろうとした。
しかし首から上しか持ち上がらなかった。
その首の根元にかすかな痛みを感じる。
「…メロ?気がついたか」
心配そうなマットの声が聞こえた。
嫌な予感は当たって、冷たいと思ったのはマスクを外されていたからだ。
焦点を結んだ視界に鎖でぐるぐる巻きにされた相棒の姿が見える。
…最悪だ。
「メロ…悪い。お前まで…こんなことに」
メロの拘束はマットよりよほどひどいようだ。
…起き上がれない。
それが鎖の重みのせいであることがわかり、メロは舌打ちをした。
幸い、首から上は自由だ。
マットと何か会話をしたところで、害はないと思われたのだろう。
それもそのはずだ。
…顔を見られた。
「…ざまあねえや」
「大丈夫か?夜中物凄い音がしたからなんだろうと思っていたら、
朝になってキラがお前を引きずって来たんだ。
もうダメなのかと思った。
…息が止まったよ」
「心配かけたな。ドジって何かを倒したんだ。でも体は何ともない。
…すまない、マット。…助けられなくて」
「オイオイ、謝るなよ。元はと言えば俺のドジだぜ。
今ん所何もされてねえし……いい事もあるしな」
「は?」
「いやいや、こっちの話。
…そうそうキラは例の物(ノート)を持って来たぜ。
さすがに普段は身の回りには置いてないらしいな。
昨日どこかから取ってきたばかりのような感じだった。
―――それを見せられて、脅されたよ。
俺とお前の名前を書かれるのと、言うことを聞くのと、
どちらを選ぶって言われて。
返事しなかったら、また夜に来るってさ。
どうやら、奴の死んだ手下の代わりに、俺を目にしたいらしいな。」
最後のセリフだけ、トーンダウンした。
「…ゴーグルはまだ付けてるようだが…?」
「一旦取られたけど、キラでもこの目(赤目)は不気味だったらしいな。
ご丁寧に付け直してくれたよ。
…そんな顔すんなよ。もちろん、おとなしく言う事なんかきかないぜ。
キラのあの綺麗な顔に、頭突きの一つもくらわしてやらぁ…」
「…やめろマット。奴はお前の聞き分けが悪ければ23日、
もっと悪ければその半分だと言ったんだ…」
「なんだよそれ?俺の寿命の話か?
…なるほど、23日は操れる最大限の日数だったな。
でも半分ってなんだよ?」
「お前が死神の取引をしてから、操って殺すか、お前が取引を拒めば、
ノートにお前が取引をすると書いて殺すか…その違いだろう」
「うわっ、陰険…。書かれた瞬間で最大23日の寿命だから、
そのあと取引すればその半分になるってことか。
…どっちみち殺すって事?」
「…まぁ、そうだな。…お前だけじゃないけどな」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、メロ~」
「シッ。誰か来た」
ガタガタ、と音がして倉庫の扉が開いた。
「もう、なんだってこんな遠いとこ、ミサが来なきゃいけないのよ。
しかも増えてるっていうし…」
何かを蹴飛ばす音がする。
「…来た来た。まずい飯とかわいい女が」
「何言ってんだよマット…」
騒がしく近付いて来た相手は見るからに機嫌が悪そうだ。
積み上げられた段ボールの上に食事らしきトレイを乱暴に置くと、
ギロッと床に転がった二人の野郎共を交互に睨む。
「なんだって、あんた達、若い身空でクスリになんか手だすのよ。
おかげでミサまでいい迷惑なんだから…」
「?」
「ミサちゃん、今日は何作ったの?」
「…カレー」
「マジ?昨日も3食カレーだったじゃん」
「うっさいなぁ。昨日のはポークカレー。
今日はチキンカレー。なんか、文句、ある?」
「ありません…」
「…何、馴れ合ってんだよ、お前ら…」
ミサにアーンしてもらってるマットを驚愕の目で見ていると、
ミサがメロをふりかぶった。
「ほら、口開けなさい」
「…いい」
「あんた、ミサの作るご飯が食べられないってんの」
「メロ、これはまだマシな方なんだぜ~。
昨日なんか肉と一緒に発泡スチロールの切れ端が…」
「だまらっしゃい」
ミサが強引にマットの口にコップを押しつけて水を注ぎこんだのでマットはむせこんだ。
「マシったって…。マット、俺が辛いのダメなの、知ってるだろ…」
「何子供みたいなこと言ってんのよ」
「ミサちゃん、そいつ、俺のダチ。辛いのダメなの。
許してやってよ。チョコかなんか与えとけばおとなしくしてるから」
「マット…!」
「…なにあんた、そんなごついカッコして甘党なの?あっきれた~。
竜崎さん以上のミスマッチング…」
その名前にメロは思わず反応した。
―――そうだ。こいつは第2のキラ。…だったはず。
「誰それ?」
マットはLの別名を知らない。
「ん~。なんっていうか…月とミサの友達。
甘いものが大好きで、ミサのケーキとりあげたりするの。
…まぁ、ミサが残してたからなんだけど。
そうそう、竜崎さんも月とミサの事、キラって疑ってた。
…ひどいのよ、ミサたちの事監禁して、ミサの月に手錠までしたんだから」
「オイオイ、お嬢さん、この状況、目に入ってる?
…大体お前ら、キラじゃん。監禁したのってLのことだろ」
「また、これだからジャンキーは…。ミサたちがキラのわけないでしょ!
…だったらステキかもしれないけど~。
それに竜崎さんはLの部下よ。Lが直接出てくるわけないじゃない。
大体逆よ、月はキラを追う世界最高の捜査官なんだから~」
「…世界最高はLだ」
「ふふ~ん。そのLが今は月なんだもんね~。
あっ。言っちゃった…。ちょっと今の、月に内緒よ」
「…」
「…」
「さ、さ、食べて食べて~」
いやいやながらメロは口を開いて、自称カレーを一口頬張った。
途端に目を回しそうになる。
聞きしに勝る味である事もさりながら、なんだこの内容物は…
マットはもうこの料理(?)に慣れているようだ。
平然と食べつつ、ミサと会話をする余裕まであるらしい。
「L…じゃなくて、その友達って、どうなったの」
「…亡くなったの。事故だって聞いたわ」
「ふうん」
―――噛み切れない。
これは肉じゃないのか…?
「…月には竜崎さんの事ミサが言ってたって言わないでね。
月、竜崎さんの話するとすごく不機嫌になるの。
…月すごく竜崎さんと仲良かったんだよね」
「へっ?キラとLが?」
「またわけわかんないことを…あんた達と話してても仕方ないわ。
ミサ、仕事があるんだから。
…あんたもう食べないの?…知らないわよ、お昼はミサ来れないんだから」
「ミサちゃん、もう行っちゃうの?」
「月の悪口言う人とは付き合えません!」
んべっと舌を出してミサはトレイを持ち、また騒がしく辺りを蹴飛ばしながら出ていった。
「ちぇ。これでまた退屈な時間か…」
「マット、お前どういうつもりだ…」
噛み砕くのを諦めたメロが何か白っぽい物を吐き出しながら言った。
「どうもこうも、見たままさ。
弥が仮にキラだったとしても、今は記憶喪失としか思えないな。
追及しても無駄さ。
それより、夜神はこともあろうに俺たちを麻薬中毒患者だと彼女に吹き込んだんだよ…。
全く、失礼しちゃうぜ。
でもまぁ、そういう事にしておいた方が、こちらとしても都合がいいけどな。
夜神月を捕まえようとしてます、なんて言ったら最後、
あのまずい飯はまずいだけじゃすまなくなるぜ。
なぁ?…メロ?」
メロは床に視線を固めたまま動かなかった。
「メロ?おいメロ、飯にやられたか?…メロちゃーん」
「…ん?あ、いや、なんでもない。…なんでも…」
「おかしいぜ。お前。
…しっかし、どういう事か、全然わからんなぁ。
キラとLがなかよしこよし?…ありえね~。
誰か別の奴と勘違いしてないか?」
メロが黙ったままだったので、マットはじゃらじゃら、と音を立てながら横になった。
「あ~。キラが俺をいつ殺すのか知らないけど、死ぬ前にうまい飯、食いたいな…」