
追走もしくは追想。
Why are you dead, L?
―― L。
―― L。
なんだって死んだりしたんだ。
バイクを走らせながらメロは怒りにも似た気持ちを亡き人にぶつけていた。
先刻のニアとの会話を思い出す。
短時間で考え抜かれた作戦はLの手法を彷彿とさせた。
認めたくはないが、すごい奴だ。
Lは心理トラップを仕掛ける名人だったが、ニアも負けてはいない。
…けれどそれはLというお手本を幼い時から見てきたからだ…。
――リンド・L・テイラーとFBIの事件。
FBIの方は不本意な結果だったとしても、
Lは実質たった2回の動きで、60億人の容疑者を一人に絞った。
…ずば抜けた天才だった。
ニアをすごいと思う事はよくあった。敵わないと思う事も。
しかし、Lは雲の上の人だった。
敵わないという次元の相手ではなかった。
誰とも、比べようがなかった。
そのLを、…キラは殺した…。
…早すぎるよ、L。
降り始めた雨は真正面から叩きつけてくる。
――― いつか会ったら目茶苦茶文句を言ってやる。
―― でも俺は天国には行けないな。
死後の世界なんて信じてないけど。
きっとあんたは天国に行っただろうから…。
―― もう、会えないな。
馬鹿野郎。L。
「メロ、ニアと仲良くしてあげてくださいね」
時期外れの入所者をロジャーが連れて来た時、何故かLも一緒にいた。
Lの頼みならなんだって聞いてきたメロは迷うことなく
「うん」と答えたが、あとから考えると、
その声はいつもより少しだけ小さかったかもしれない。
ニアをLが紹介したという事に軽く嫉妬していたのだろう。
メロはそれまで院のトップの成績を保持し、
自他ともに認めるLの最有力候補だった。
嫌な予感は当たった。
ニアはメロが努力して努力して手にするものを瞬く間に取得してしまう能力の持ち主だった。
それでもLとの約束だから、人から敬遠されがちなニアに、メロは進んで声をかけていた。
ある日の午後、仲間たちと行く、校舎の裏の広い空き地探検にニアを誘った。
メロはわくわくしていて機嫌が良かった。
珍しく、ニアがいても楽しくやれそうな気がしていた。
しかし、ニアは普段以上に愛想がなかった。
「メロ、無理に私を誘わなくてもいいんですよ」
広い部屋に一人きりで白いジグソーパズルを組んでいたニアは顔も上げずにそう言った。
「…無理にだなんて」
一瞬、ドキッとした。
見透かされた気がした。
「…メロは、私が嫌いでしょう?
仲良くしてるふりなんて、しなくていいです。
…Lとの約束を気にしているのなら、Lのいるところでだけ、やればいい。
…別に告げ口なんて、しません」
「―― !」
結局、返す言葉が見つからず、怒りはドアを叩き付けるように閉める事で示した。
それ以来、ニアとはほとんど口をきいてない。
キラが出現してからは、Lが院に来る事も絶えた。
一度だけ、ロジャーを通して短いメールが来ただけだ。
『メロ、元気ですか。
私は生まれて初めて、友達らしき人が出来ました。
(メロ達の事は家族だと思ってますから)
なかなか良いものですね。
今はその友人と一緒にキラを追っています。
メロ、ニアをよろしくお願いしますね。
L』
腹立たしくて、返事は書かなかった。
それからわずか数ヵ月後。
ロジャーに呼ばれてLが死んだことを聞いた。
あのメールを最後に、帰らぬ人となる事が分かっていたら。
―― 嘘でも何でも、書いたのに。
捨てられた子猫のような気持ちだった。
その日のうちに、荷造りを済ませ、
翌日の早朝、院を出ることにした。
12月の寒空だった。院のあちこちにはクリスマスの飾り付けが施されている。
クリスマスはメロの大好きなイベントだった。
実際一週間前には、みんなと大騒ぎしながら先頭を切って飾り付けをしていた。
その全てが、今は疎ましく感じた。
早く早く、この場を去ってしまいたかった。
『…行くんですか』
不意に声をかけられ、振り向くと、
たった今出て来たばかりの門にニアが寄り掛かっていた。
あまりにも静かに佇んでいたので、気付かなかった。
…かなり前から待っていたのだろう。
『…なんだよ。まだ嫌味言い足りないのか』
ニアは黙ってメロに数歩近付いた。
目の高さが同じ位の人間がほんの数10cmの所に立っているというのは
居心地が悪かったが、ニアは意に介さない。
『…あの時の事は謝ります。だから、…行かないでくれませんか』
あっけにとられた。ニアが謝るというのも意外だったが、
それ以上に行くなと言われた事に心底びっくりした。
次に怒りがきた。
『…ふん、お前こそLになにか言われてんじゃないのか。
冗談じゃない、お前と組むくらいなら悪魔と組んだ方がまだましだ』
『メロ、』
ニアがさらになにか言おうとするのを無視して、ワイミーズハウスに背を向けた。
――― Lのいない院なんて何の意味もない。
絶対、絶対、キラを捕まえて死刑台に送ってやる。
別に、試験で一番になりたかったわけじゃない。
あんたの一番になれれば良かったんだ―― 。
5年という月日はたったけど、その気持ちは変わっていない。
―― キラを倒してLの敵は俺がとる。
その為ならなんだってする。
ニアに協力するのは真っ平御免だが、それがどうしても必要というならば話は別だ。
些細なプライドや意地にこだわって目的を忘れてはいけない。
…Lの教えだ。
『目的を、最終的な目的を見失ってはいけませんよ。
目的の為の目的に捕らわれて、自分が元々何をしたかったのか、
忘れてしまう人が大勢いるんです。
どんな時でも自分の最終目標は一番の念頭に置いておかないといけません』
『ふうん。僕の最終的な目的はLと一緒に捜査することだよ』
『…一緒に捜査するというのが対等な立場でという意味なら、
残念ながらそれは難しいですね…。
Lというシステムは極端な一極集中型なのですよ。
そうでなければ成り立たないシステムと言ってもいいかもしれません。
…ようは複数に分けるには権力がありすぎるという事です。
頭が複数ある怪物のヒドラは結局首がこんがらがってしまい、
退治されてしまいました。
メロが私と全く同じ思考回路であれば別ですが…。
それでは結局一緒に捜査するという意味がない』
『対等でなくてもいい、Lの言う事何でも聞くよ。僕はLを手伝いたいだけなんだ』
『おやおや。随分殊勝な事を言いますね。
言う事を聞くだけなんて、メロには難しいと思いますよ。
…それに、手伝うというなら、もうすでに手伝ってもらっていますよ』
『えっ?』
『こうして話し相手になってくれてるじゃないですか。
…Lにとって何よりの助けです』
『ええ~っ。…なんか誤魔化されてる気がするけど…』
『でも本当ですよ。大真面目です』
そう言ったLの顔が本当に真面目だったので、吹いた。
―― 幸せだった気がした。あの頃。
一日が長くて、大人になるのは遥か先の事だと思っていた日々。
もう戻れない。
怒られるのは俺の方かもしれない。
ごめん、L。
俺、あんたの敵をとりたい。
―― どんな手を使っても。
アクセルを踏み込んだ。
―― 作戦開始まで、あと5分。