暗闇

Mello on the trail.


完全防音の扉を、音を立てぬよう気をつけながら閉めて、メロは通路にでた。

隣りの部屋にさっと目を配る。

ニアは鋭い。

防音といえど、気をつけなくては。

キラの電話を受けたときから、メロの心は決まっていた。

―――Lが俺たちに命懸けで遺したデータをキラに渡すわけにはいかない。

しかし奴は本気だ。

マットを利用して殺す事を躊躇しはしないだろう…。

片手で左胸を押さえた。熱い。

先ほど読んだ、Lの手紙。

こればかりは、万が一の時も奪われるような事があってはならない。

Lの形見を手放すのは辛かったが、

これからの自分の行動を考えると、そうも言ってられなかった。

金庫室に寄って、中の一つに手紙をおいた。

迷ったが、GPSがついたままだった写真も置いて行くことにした。

―――これでニアの助けは期待できない。

地下二階にある部屋は何重にもなった扉のそれぞれに

暗証番号で厳重にロックがかけられている。

日本捜査本部はおそらくこの階に来た事はなかったのではないか。

最奥の扉まで来て、メロは壁のプレートに指を走らせた。

認証完了の文字を浮かべた液晶が青く発光する。

開いたシャッターの中身を軽く検分し、

棚の一つから小型の拳銃を選んで弾倉を確認した。

ベルトの背中側に突込んで、ジャケットで隠す。

メロはしばし呆れた顔でシャッターの中身を眺めてから、

再びプレートに指を走らせ、ロックをかけた。

―――全く。

戦争でもおっぱじめる気だったのか、L?

バイクを走らせながら、メロは頭の中で先ほど覚えた地図データを復習した。

コンピュータに不慣れなニアの目を掠(かす)めて、

Lのシステムで探し当てたのは、ある一つの住所。

―――キラ、お前はネットワーク越しに

俺たちを監視していたつもりだったんだろうが、

それは俺からお前に辿り着くための情報にもなるんだぜ。

幸運なことにキラは人質を移動させており、

それがアクセス地点の解析に役立った。

Lの捜査本部からさほど遠くない。

自分でも馬鹿な事をしてるとは思う。

マットを助け出したところで、名前はキラの手中のまま。

下手をすれば自分も顔を見られてお終いだ。

それでも、マットが名前を書かれて操られるのを、

指を咥えて見ている訳にはいかない。

―――元はと言えば、俺たちのくだらない争い(ゲーム)が発端だ。

最初から意地を張らずにニアと協力していれば、

マットを巻き込むこともなかったかもしれない…。

死なせるわけに、いくものか。

―――ああ、L。

俺はやっぱりあんたの後継者には向いてないみたいだよ。

自分に一つ、溜息をついて、

思い切るようにメロはアクセルを全開にした。

目的地から少し離れた場所にバイクを停めて、

メロはあたりの様子を窺(うかが)った。

キラがマットを移動させたと見られた倉庫は

数年前に倒産した電気部品メーカーの所有していたもので、

窓はなく、入口が数ヵ所あるのみの古い施設だった。

人気がないことを確認してから、メロはニアに短い時間指定メールを送った。

内容は簡潔だ。

Lの手紙が入った金庫のナンバーと、その暗証番号だけ。

これでデータの方はニアがなんとかしてくれるだろう。

念のため、携帯のデータをすべて消去する。

AM4:00。

さすがのキラもこの時間にマットのところにはいないだろう。

しかし念のため、倉庫の壁に人声に感度の高いセンサを貼り付け、

しばらく様子を見た。話し声に相当する反応はない。

あとはなんとでもなれだ。

倉庫の鍵はたいした苦労もなく開いた。

赤外線スコープのついたマスクのレベルを左目の横のダイアルで調整すると、

思いの他ごちゃごちゃした庫内が現れる。

つぶれたメーカーは倉庫の中身を処分する資金すら残っていなかったのだろうか。

何列も狭い間隔でならんだ棚には様々の大きさの箱が高く積み上げられ、

はみ出したコードやわけのわからない物品が気味の悪い影を構成している。

マットがこういうものに弱かった事を思い出して、少し心配になった。

俺を見て、いきなり叫んだりしないでくれよ…

足元にもまた雑多な部品が転がっている。

音を立てないよう、メロは注意深く棚の間を進んでいった。

緑色の光が揺れる赤外線スコープの視界の縁を、ふと明るい領域がよぎった。

温度の高いもの…マットだ。

生きてる。

ほっとしてそちらに足を一歩踏み出した途端、

ガタン、という音がした。

しまった。

何かに触れたらしい…思う間もなく、

重そうな柱のようなものが倒れかかってくるのが見えて、

慌ててメロは身をひねった。

間一髪、重たい一撃はかわしたが、首のあたりに鋭い衝撃を感じる。

くそ。急所を…

薄れゆく意識の中で、さっきよけた鉄材が床に倒れるものすごい音、

「誰だ?」

というマットの声、

不思議なほど自分がゆっくり倒れて、

床にくずれ落ちる音が聞こえた気がした。



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