
囮
T to Light(2)
「メロもニアも、すでにある人物をキラだと疑っている。
…いや、ほとんど確信している」
「そうなのですか…」
「その人物は疑われても仕方のない立場にいる。
かつてキラを追い詰めた探偵L…彼の素顔を知り、
その死を看取った数少ない人間の一人であり、
かつ…偶然とは恐ろしいものだが、…魅上、お前の選んだ高田清美が、
かつて交際していた人間でもあるからだ」
「なんと!…そして、それは…誰なのですか」
声は一瞬躊躇したようだった。
「…夜神月という青年だ。しかし、魅上、彼には決して手をかけるな。
夜神にはまた別の使い道がある…」
「…夜神月…」
それが、あるいは神を示すもう一つの名なのだろうか。
いや、余計な詮索はなしだ。
「ああ。しかし、ニアもメロも彼の顔を知らない。
また、お前の事も知らない。…高田を使う。
高田にお前が夜神であるように振る舞わせ、お前もまた夜神月であり、
かつ第一のキラであるように振る舞ってもらう」
「はい」
「そして、もし必要となれば、だが…さっきの夜神月、
彼にキラの代理人、つまり魅上、お前のふりをしてもらう。
もちろん、この交代劇は長引けば負けだ…。
捜査本部の人間にもばれるわけにはいかない。
…わかるな、魅上?お前はなんとしてもニアの名を見なければならない。
それ以外に奴の名前を知る術はない。
…お前だけがニアの名を知ることができるのだ」
「神よ…。必ずや奴の名を手に入れてみせましょう」
「名前を手にいれたとしても、それをノートに書かねば意味がない。
…そしてニアの拘束は容赦のないものになるだろう。
…魅上、歯は丈夫か?」
「は?」
一瞬面食らった。やはり神の考える事はわからない 。
「…虫歯はありませんが…」
「よし。では近いうちに歯医者に行ってもらおうか。
…まあ、それは単なる保険だ。
重要なのはここからだ。
…魅上、お前は携帯でメールとか、書くだろうな?」
「たくさんではありませんが…」
「これからはなるべく英語で打ってほしい。内容はどうでもいい。
別に送信する必要もない」
「神…?」
「日頃の鍛錬が、重要だよ」
押し殺した、しかし無邪気と言ってもいいような、屈託のない笑い声が響いた。