
会議
Near,Mello, and SPK. A call from Kira.
「とりあえず、キラ逮捕を最優先に計画を立てましょう」
5人のメンバーを集めての会議でニアはそう口を切った。
「待てよニア、人質は…」
「人質も助けますが…キラを逮捕できれば、自動的に助けられます。
人質だけ先に助けても、キラに名前と顔を知られている以上、
命に危険があることにはかわりませんし、
むしろ操られて却ってこちらの不利になる行動をとる危険性があります…」
「確かにニアの言うとおりだ」
「キラが人質になにかするとしたら、解放した時です。
むしろ掴まったままの状況の方が安心です」
「……」
メロは渋々引き下がった。
「しかし、キラを捕まえても証拠がなければどうしようもありません。
結局、我々が握っていたカメラの映像や会話の録音では
魅上しか有罪に出来ません。
しかしその生きた証拠でもあった魅上は死にました…
証拠をあげるための作戦を立てなければなりません。
また、この建物内には、証拠とまでいかなくとも、
キラに関する重要な資料があるはずです。
簡単ではありませんが、これも探したいと思います」
「Lの情報ですね」
テーブルの上の、干からびた何か菓子屑のようなものを
払い落としながらリドナーが言った。
そしてなぜかニアとメロに睨まれた。
「キラも、魅上を使った作戦が失敗したことで
新たなシナリオを練(ね)り直してるはずだ。
奴の狙いは俺とニアを殺すこと。
そのためには死神の目が必要だ。
おそらく裁きは高田に任せているはず。
足が付きやすいような事は、奴はしない…。
裁き以外にキラとしての行動をとることがあるとしたら、
高田に連絡を取る時か…または、新たな目を作る時だな」
「キラ自身が目を持つ可能性は考えなくてもいいのか?」
ジェバンニが尋ねた。
「死神との取引は寿命の半分と引き換えなんだ。
奴がそんなリスクを負うとは思えない」
「これまでも弥や魅上にその役をやらせてましたからね…。
おそらく彼らは自ら進んで取引を行ったのでしょう。
夜神月の恐ろしい所は、実はその切れ過ぎる頭脳や巧みな弁舌等ではなく、
人を盲目にする強力なカリスマかもしれませんね…。
弥や高田があっさり陥落してるところをみると、
相当な二枚目でもあるようですし」
リドナーがかすかに眉を寄せた。
「まず、資料探しと行きましょう。
リドナー、貴方はネットワークに強かったですよね。我々を助けてください。
レスターとジェバンニはこの建物の調査をお願いします」
「了解した」
「…あ、Lがなにかトラップを仕掛けているかも知れませんから、
十分注意して下さい」
「…承知した」
「命に関わるような物はないと思いますので…」
「えっ…!」
「…な!?」
「たぶんな」
パキッとチョコを割ると、メロが肩をすくめて見せた。
「すまない。俺がうかつに声紋照合機を破壊しなければ、
キラはまだ俺たちが魅上に騙されてると考えていたかもしれない…」
「いえ…あの状況では致し方ありません。
私を助けるためにして下さったことですし。
…感謝していますよ、メロ」
二人はモニターの前に座り、
コンピュータに残ったデータがあるかどうか調べていた。
リドナーがその隣りのモニター前で作業をし、
レスターとジェバンニは建物の調査に行ったまま、まだ戻っていなかった。
紙としての情報媒体が出て来ることはほとんど期待できなかった。
当然日本キラ捜査本部、またはキラが持ち帰っているだろう。
また、電子情報もすぐに見つけられる場所にあるはずがなかった。
「ほとんどのデータはワタリが非常の際に消しているはずです。
また例えわずかなデータが残っていたとしても、
夜神月(キラ)が放置しておくはずがありません」
夜神月がそういった事に滅法強いことは、
キラの情報入手の巧みさなどをみても明らかだった。
「…しかし、Lは最後の手紙でここに来いと言った。
という事は、何かを残していったって事だ」
「はい。Lは伊達や粋狂で我々に宝探しをさせたりはしないでしょう。
…メロ、このディレクトリ、怪しくないですか」
「…ちょっと待ってろ、ん…そうだな、
いやこれは単なるOSのバックアップが入ってるだけの…ってニア、
お前そういえば…」
「…コンピュータは嫌いです」
「レスター達と一緒に行った方が良かったんじゃないのか…?」
メロが呆れて言うと物凄い目で睨まれた。
リドナーが少し緊張した面持ちでニアを振りかえった。
「ニア、我々がここにいることは夜神に気付かれたと思います。
ネットワークを監視するプログラムが仕掛けられていたみたいで」
「知ってますよ」
「えっ?」
「…どうやってするのかは知りませんが、
コンピュータがこうして使える状況であることから、
キラがここに戻ってくることを考えていた事がわかります。
日本捜査本部はここのデータで盗(と)れる物はすべて盗っています。
偽Lの本部が曲がりなりにも機能しているのはそのためですから。
しかし、必要なデータやシステムが持ち出せたなら、セキュリティを考えて、
こちらのシステムを完全に使えない状態にしておくべき…。
…おそらくキラもまだ取り切れてないデータがあるかもしれないと疑っていたんです。
それがどんなものであるかは知らないけれど、
ひょっとすると自分の首を絞める事になりかねないようなデータが。
システムが中途半端に残っているのは、それを探すのに必要だからです。
そして、危険なデータが残っている場所なら、
他人がアクセスした時に自分に通知がくるようにしますよ。
…私なら」
「…しかしもう5年経つんだぜ?その間ずっと見つからなかったという事か?」
「それに、危険なデータなら探す以前に破壊してしまえばよかったのでは?
ハード的に壊してしまえばどんなデータもお終いですわ」
「…多分探すことすらできなかったんです。
このビルの入口のパスコード、
私とメロが到着した時には3人分の登録しか残っていませんでした。
私とメロと…おそらくL、です。
タイマーか何かで登録が切れるようになっていたんでしょう。
またなぜ破壊しなかったかという疑問については…
…それは私にもはっきりとした事はわかりません。
しかし、回りに他のメンバーのいた状況では
Lの持ち物を破壊するという行動が取りにくかったのかも知れません。
またはキラはどんなデータか見当がついていたのかもしれません。
その上でそのデータを消すより取って置く方が有益だと判断したのかも知れません。
…もし私の予想が当たっていたとしたら、不可解なんですが…」
夜神月は複雑怪奇な性格らしいですから、
とニアが言いかけたところで、
メロの携帯が鳴った。
ピピピピピ…
GPSによる追跡を恐れて切っておいた携帯の電源をいれたのはほんの少し前だった。
発信元は非通知だ。
少し警戒しながら出る。
「…もしもし」
「…ミハエルか?キラだ」
受話器を押さえて
『キラだ』
とニアに合図した。
「先日は魅上が世話をかけたな」
「…どう致しまして、お前のせいじゃないのかよ…」
「選んだのは彼自身だよ。
ところでメロ、君達は懐かしい場所にいるらしいじゃないか。
そこからの眺めはすばらしいだろう?」
「貴様…、さっさと用件を言え」
「つれないね。せっかくそこの秘密を教えてあげようと思ったのに。
…竜崎がそこに特別なデータを残していること、
聞いてるんじゃないのかい」
「…知らないな」
「…君達がかわいそうなマット君を見殺しにする気だと言う事はよくわかったよ。
僕としても利用価値のない人質をいつまでも養っておきたいわけじゃない。
取引といこう。
君達が真のLの後継者を名乗るなら、その城の秘密を手にする事くらい簡単なはずだ。
マット君の命はその秘密と交換ということにしよう。
なにも、君らの命と交換しろと言ってるわけじゃない。
極めてリーズナブルだろ?」
「…お前が約束を守る保証なんてどこにもない。
解放してから操って殺すかもしれない」
ニアが会話を聞こうと顔を寄せて来たので、メロは手で追い払う仕草をした。
「…メロ、お前のその口で言われたくない。僕は君のような汚い真似はしない。
…まぁ、いいさ。
君達がNOというのなら最初の予告どおり、キラの片棒を担いでもらうさ。
目も欲しいしね。
まぁ、マット君は聞き分けが悪いところがありそうだから、
せいぜい23日間ということになるかな。
もっと聞き分けが悪ければ、さらにその半分だ」
「キラ…」
「メロ、そこにニアがいるんだろう。奴は話がわからない。
僕が話したいのはお前だ。
竜崎は彼の独断でワタリにも秘密でキラのことを調べていた。
どんなデータなのかは知らない。
けれどそのデータは消されずに残っているはずなんだ」
キラの声はまるで懇願しているようだった。
不思議な不快感を感じてメロは受話器を握る手に力をこめた。
「…答えはNOだ、夜神月」
「…残念だよ」
いきなり氷点下にその声のトーンを変えて、電話は切れた。
「メロ」
「聞こえてたんだろ、ニア」
「…はい」
「…じゃあ、…なにも言うなよ」
「…いいんですか」
「…仕方ない。
要求はのめないし、のんだとしてもキラがノートを持っている以上、
マットの命は奴に握られている…」
押し殺した声で言うと、ニアはほっとしたらしかった。
「…とにかくキラを早くつかまえましょう。まだ間に合うかもしれません。
おそらくデータはキラを逮捕できるだけでなく、
今のこの世の流れを変えることが可能な物なのでしょう」
「…」
「メロ?」
「いや、なんでもない…大丈夫だ」
「あの…二人とも、真剣な話の最中に申し訳ないんですが」
遠慮深げな音を立てて、椅子に腰掛けたままリドナーが二人を振りかえった。
「なんです、リドナー」
金髪の美女は居心地が悪そうだった。
「レスター指揮官とジェバンニからSOSが…。
なんでも、奇妙な小部屋に閉じ込められたとかで……」